ファースト・ステップ(完)

夏世と航と弟たちは電車に乗った。夏世が4人掛けのボックス席の前の席に座った。
「隣、いいですか?」
夏世が見上げた先には航の笑顔があった。
「え!?あ、でも、あれ?」
夏世が自席に膝をついて後ろのボックス席を見ると、陽の隣に智が座り、陽の向かいに修が座っていた。
智が「俺、足長くてさー」と思いっきり足を伸ばし、それを修が憎々しげに睨んでいる。

「ど、どうぞ」夏世が遠慮がちに答えた。
「では、失礼」航が隣に座った。

「無事に終わって良かったです」夏世がホッとため息をついた。
「そうですね」
背後から「でもさー」修の声が聞こえた。
「兄ちゃん、なんで今すぐ結婚しないの?」
「それ、俺も気になってた」
「あんまり待たせるのは良くないと思う」
「陽くんの言うとおりざますよ」
航が「それは……」と言いかけ、夏世が「違うんです!」と叫んだ。
「私が、お願いしたんです」
「あんたが!?」「夏世っぺのくせに?」「なんか意外」
3人が口々に言う。

「だって……ゴミの分別くらい出来ないと困るし」
「あ?あんだって?」修が聞き返した。
「ですから、私も働き続けるつもりなんで、結婚するからには、ペットボトルが資源ゴミだってことぐらい知っててもらわないと!!」
3人の脳裏に智が家出したときの片岡家の惨状がよみがえる。
つまり、結婚するには航の家事能力に不安があるということらしい。

修が「この小娘、調子に乗ってない?」と囁き、
智が「うん、乗ってるな」と答えた。
「自分だって人のこと言えた義理じゃないのに」陽も2人の兄に同調した。
夏世は「ハハハ……」と身を縮めながら空笑いし、控えめに航を見た。
航は笑っていた。何もかも受け入れているような表情だった。



夏世と航と弟たちを乗せた電車が走ってゆく。
修が息を殺して、前席の2人の様子を覗いた。
「俺、もう1度、美那絵さんにアタックしようかな」
「いいんじゃないの?何度アタックして何度振られたってさ」
「振られる前提で言うんじゃねーよ!」
「修兄、がんばって、……智兄も」
「陽もな」智が長い足を組み替えた。

今度は3人で席の背もたれから身を乗り出して、前席の2人の様子を眺めた。
航と夏世はお互いが身を寄せ合うように眠っていた。

おしまい