サブディスプレイ

片岡家のリビング。月山夏世が修から花園ゆり子の原稿を受け取り、中身を一枚一枚確認した。
「はい、確かに頂きました。お疲れ様でした」
原稿を手提げカバンにしまい「失礼します」とお辞儀をした。
そのすぐ後に「あれ?」と月山夏世がキョロキョロしている。
「おい小娘、今さら原稿足りませんとか言っても遅いざますよ」
「違います。携帯電話が無いんです」
変だなあと言いながら、カバンを開けたり、ポケットを探ったりしている。
「電話を鳴らしましょうか?」
「お願いします」
航が月山夏世の携帯電話に発信した。

チャチャチャ♪チャチャチャ♪チャチャチャチャチャチャチャ♪
三三七拍子の着信音が鳴った。

「こんなところにありました」
航は自分が座っていたソファの隙間に挟まっていた携帯電話を拾って、何の気無しにサブディスプレイの発信者名を見た。
「『長男』……」
「あ、航さんです」
「そんなこたぁわかってんだよ!」修がツッコミをいれた。

「最初は『花園先生』と登録したのですが、誰が誰だか判らなくなっちゃって」
航は「そうでしたか」と苦笑したあとに、「どうぞ」と携帯電話を月山夏世に返した。
「夏世っぺはホントにアホな子だねえ」
「なんでですか!?」
「人には名前があるのにさ」陽が言った。
「だって……」
4人もいるから、最初は名前と顔が一致しなかったんだもん、とは言えなかった。
一致してからも、何となく登録名を変えようとは思えず、そのままにしていた。

それから月日が流れ、航と月山夏世は2人だけで過ごす時間が増えた。
帰り際、月山夏世がキョロキョロ周囲を探している。
「航さん、携帯電話を鳴らしてもらっていいですか?」
航は微笑んで月山夏世の携帯電話を鳴らした。
航の足元で三三七拍子を鳴らす携帯電話を拾って、サブディスプレイを見た。
「『長男』……」
「あ!すみません!」
「いいですよ。なんだか嬉しいです」
月山夏世が小首を傾げた。
「離れていても兄弟であることを実感できて、貴方がそういう僕を受け入れてくれてる気がして」
「当たり前じゃないですか!」
月山夏世は満面の笑みで答えた。

「ところで、私の登録名は……?」
航の携帯電話を鳴らしてから、航の手から素早く取り上げた。
そのサブディスプレイに表示された名前は
「『月山さん』」月山夏世が読み上げ、
「……はい」航がバツが悪そうな表情で返事をした。
「いい加減に名前で呼んでください!」