喜びの歌

航が陽は血のつながった兄弟でないことを告げた日から一夜明けた片岡家。
4兄弟は一昨日と変わりない様子で食卓で朝食を食べていた。
真実を知らされた陽は知る前よりも屈託のない表情をしていて、あんなに頑なに守ってきた秘密は何だったのだろうと航は思っていた。

「今日は蛍潮出版の〆切だからな。修兄、ちゃんと進んでる?」茶碗を片手に智が尋ねた。
「え〜今日ぐらい休もうよぅ」
「何言ってんだ。明日は明日の仕事があるんだから、今日のことは今日中にやらねえと、雪だるま式にとんでもねえことになるよ」
「それはいーやーだー」両耳をふさいで首を振った。
「蛍潮出版といえば、担当を月山さんに戻してもらったから」航が言った。
「……そう」月山夏世の涙を見ていた智が返事をしたあとに「そういう対外的なこと、相談なく勝手に決めるの止めてくれる?」と続けた。
これは喧嘩勃発か!?と修が息をのんだが、航は「ああ、そうだな」と答えただけだった。
「じゃあ、今日ガッサンさん来るんだね」陽が嬉しそうに、はにかんだ。
「飯食ったら仕事だ仕事!!」智が茶碗を重ねながら手を叩いた。

仕事場に移った4人はそれぞれの机でそれぞれの仕事をしている。
「ふんふんふん♪ふふん♪」
「修兄、鼻歌止めろよ、うるせえな」
「俺じゃねえよ!」
智が机の上でスケジュール帳を開いたまま、顔を上げた。
修が「陽くん?」と陽を見て、陽は修を見て”僕は歌ってない”と首を横に振った。
修、智、陽が無言で航を見た。
「ふふんふん♪」
3人の弟たちの視線に気づいて、航が仕事の手を止めて顔を上げた。鼻歌も止んだ。
「どうした?」
「『どうした?』って……」
兄ちゃんこそどうしたんだよ。

「陽くん、お兄ちゃんはちょっと精神集中してくるね」
「う、うん」
修が席を立った。
「早く戻ってこいよ」
部屋を出て行く修を引き留めず、智が言った。

修が自分の部屋にむかいながらブツブツ呟いた。
「親しい、親しげ、親しさ、親しく、親しき、
 親しき仲にも礼儀あり!?」

月山夏世が原稿を取りに来るまであと1時間。