友達

ぼくは、ひらがたかし。小学校3年生です。
ぼくは、生まれつき体が少しよわくて、あまり外で遊べません。4人のお姉ちゃんは、みんな中学校の生徒会長とか、小学校の児童会長で、ケンカもすごく強いです。ぼくがいじめられると、相手をやっつけてくれます。
おうちに帰ればお姉ちゃんがいて楽しいけど、ぼくは、やっぱり外で遊びたかった。でも、どうすればいっしょに遊べるのか、わからなかった。

夏休みが始まって数日過ぎた夕方、たかしが半べそをかきながら家に帰ると、驚いた4人の姉が玄関まで出てきた。
「「「「どうしたの!?」」」」4人の姉が声をそろえた。
「女みたいなかおで、弱虫だから、なかまに入れてやらないって。」
「どこのどいつがそんなこと言ったの!?一発殴ってやる!」一番目の姉。
「たかしくんは、」「顔がきれいだから」「「みんなヤキモチやいてるのよ。」」二番目の姉と三番目の姉。
四番目の姉は無言で自分の分のオヤツを差し出した。
たかしの顔が少し赤く上気して、目もうつろになっている。一番目の姉がそれに気づいて、膝をついてたかしに目線を合わせ、額に手をあてた。
「熱が出てる。おかあさん!たかしが熱出した。」
軽々とたかしを抱えて、奥の部屋に運んだ。
たかしの日常は、たいていこんな様子だった。

たかしが目を覚ますと、父がたかしに背を向けて新聞を読んでいた。
「おとうさん!」
一ヶ月ぶりの父子再会だった。
「また、泣いて熱を出したらしいな。」
父は背を向けたまま、たかしに言った。
「ごめんなさい。」
「あやまることじゃない。」
父は体の向きを変えてたかしを見て、頭に手を乗せた。
「たかしは、たかしの得意なことでがんばればいい。できないことを無理にするな。好きなことをがんばれば、もっと堂々とできるぞ。」
たかしはわかったような、わからないような顔をして、小さくうなずいた。
「それから、自分が悪いことをしていないならば、男は簡単に謝るもんじゃない。」
「はい。」たかしは大きくうなずいた。
台所の方から、姉の声が聞こえてきた。
「お父さん!頼んだお土産と違うーーー!!」
「あー、ごめん、ごめん。」立ち上がりながら、台所の方角に声をかけた。そして、少しバツが悪そうにたかしを見た。
「相手が女の場合は別だ。」
たかしは掛け布団で顔を隠してクスクス笑った。

翌日、たかしは午前中に図書館に行き、野球の本と水泳の本を借りてきた。その帰り、河原の土手に座り、同じ年頃の子供達が野球をしている様子を見ていた。
ちょっと引いたところから全体を眺めると、いろいろなことが見えてきた。
バットにボールが当たれば大きく大きく飛ぶけど、なかなか当てられない4番。
足は速いのにタイミングが悪くて盗塁に失敗している1番。
ピッチャーはカーブがすっぽ抜けてばかり。
そして、ルールを判っていないのか、たびたび集まっては、あーでもない、こーでもないと揉めている。「そんなんだから、となり町に勝てねーんだよ!」って声も聞こえてくる。
「もしかして、こいつら、下手くそ?」
たかしは、ボソリとつぶやいた。なんで、ぼくは、仲間に入りたがっていたのだろう?
その後もしばらく野球の様子を見て、野球の本を読み、水泳の本を開いて、やがて土手から姿を消した。
「あいつ、今日は何もいってこなかったな。」
土手に座るたかしに気づいていた4番が言った。
「いつも追い返していたから、あきらめたんじゃねーの?」
1番も気づいていた。
「根性ないやつ。」
黒く日焼けした薄茶色の短髪のピッチャーが毒づいた。

その翌日から、たかしは土手に姿を現さなくなった。
そして2週間ほどが過ぎ、たかしは久しぶりに土手に行った。
相変わらず、4番は空振り、1番はタイミングが悪く、ピッチャーはノーコンだった。
たかしは、すぅっと息を吸って、大きな声で怒鳴った。
「へったくそー!」
子ども達の野球する動きが止まった。ピッチャーがかぶっていた帽子をぬいで、地面に叩きつけて、土手を見上げた。
「なんだとー!?もういっぺん言ってみろ!」
「なんどでもいってやるよ!へたくそ!」
「このやろー!」
ピッチャーが土手を駆け上がろうとするのと同時に、たかしは土手を駈け降りた。軽く駆け足をしても、たかしの息は乱れていなかった。
「どうして、きみのカーブがきまらないか教えてやろうか?」
たかしの口調に2週間前のオドオドした面影は全くなく、ピッチャーはおどろいた顔をしている。
「ヒジが前に出てないからだよ。手首だけで投げようとしているからだ。」
「な、なんだよ、知ったふうなクチをきいてさ。野球やったことあんのかよ?」
「ないよ。なくても見てればわかるさ。ぼくは頭脳派なんでね。」「きみたちが仲間に入れてくれなかったおかげで、じーっくり見させてもらったさ。君たちのへたくそぶりも、」
となり町の方角を見て言葉を続けた。「となり町の強さもね。」
子ども達はお互いの顔を見合わせた。
「ぼくがコーチをすれば、勝てると思うけど?」

ぼくは、ともだちがほしかった。一緒に遊ぶともだちがほしかった。
でも、ぼくはみんなと走り回ることができない。だから、走り回る以外の方法でみんなと遊べる方法をいっしょうけんめい考えた。
そして見つけたんだ。どうすればいっしょに遊べるのかを。
みんながとなり町に勝てるように、ぼくがいっしょうけんめい教えること。それが、ぼくとみんなをつなげる方法だったんだ。

――誤算だったのは……
教え癖がすっかり身に付いて性分になってしまい、とうとう但馬館の生徒会長にまでなってしまった、平賀隆志は生徒会室の窓からグラウンドを眺めていた。

あのとき、一番、友達になりたいと思っていたピッチャーが

藤堂克子だったことだ。

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