意外

ぼくは平賀隆志。但馬館の生徒会長だ。
ぼくは、ひょんな事から修学院の鹿鳴会会長如月いるかと、ある秘密を共有してしまった。今になって思えば、同会長の山本春海のヤキモチ焼きの性格を甘くみていたのだろう。あの時にはその場に流されて、よく考えずに行動してしまった。
時期はぼくが中学3年の1月中旬、たまに雪が舞い散る頃だった。

「春クン!まのか、見ちゃった。」
山本まのかは倉鹿の山本宅に帰るなり、息せき切って山本春海に話しかけた。
雪山ツアー以来、山本まのかは1人で倉鹿の町を出歩くことが増えた。それは、山本春海の足のケガを気遣ってのことでもあり、山本春海への依存から自立し始めた兆しでもあった。
「見たって、なにを?」
ケガの為に部活に参加できない山本春海は帰宅が早く、夕飯を待ちながら夕刊を読んでいるところだった。
「教えてあげようかなー、でも教えると春クン怒っちゃうかもー。」
「だったら、聞かないよ。」
「えー!やっぱり聞いて聞いて!あのね、いるかちゃんが知らない男の人と歩いてた。」
ガサッ。山本春海は読んでいた新聞をテーブルに置いた。「ふーん。」興味が無さそうに、テレビのリモコンをとって、テレビの電源を入れた。
山本まのかは山本春海の反応の薄さに不服らしく、聞かれてもいないのに、更に続けた。
「あれは、但馬館の制服ね。この前、試合で見たから知ってるもん。」「背が高くて、髪の毛がふわふわっとしてて、眼鏡かけてた。」
山本春海はテレビから目を離さずに、チャンネルを頻繁に変えている。
「春クンとは違うタイプのハンサムね。」
「あー、そう。」
テレビのチャンネルは更に激しく頻繁に変わっている。
「いるかちゃんは、その人に紙袋を渡してた。プレゼントかしら?」
「ふーん……。」
テレビのチャンネルの動きが止まった。テレビの画面にはNHKの詰め将棋の講座が映っている。
「春クンはいるかちゃんからプレゼントもらったことある?……ないでしょうねえ。あったらまのかの手紙に書くもんねえ。」
「……。」
山本まのかは、山本春海の顔が段々青ざめてきたことに気づき、更に追い打ちをかけた。
「いるかちゃん、声が大きいから聞こえたのだけど、相手の名前呼んでた。」
わざともってまわった言い方をする。
「平賀だって。誰だか知ってる?」
山本春海は震える声で言った。「但馬館の……生徒会長だ。」
「敵同士の生徒会長なんて意外な組み合わせね。まるでロミオとジュリエットみたい。」

山本春海がショックのあまり真っ青になった時から遡ること1時間ほど前、如月いるかは但馬館の中庭にいた。
「また来たのか!?」
平賀隆志がウンザリ気味で言う。
「だって、気になっちゃって。」
「ちゃんと、山本とかに言ってから来ているんだろうな?」
「言ってないよ。但馬館と戦ってる最中なのに、その但馬館に出かけるなんて言えない。」
「ほう、少しは空気が読めるようになったようだな。」
「なんだよ!?あたしだってねえ!いろいろ考えてるんだから。」
「いろいろ考えているならば、もう来るな。恐ろしいことが起こりそうな予感がする。」
「でもー。」
「とにかく、今日はもう帰れ。」
平賀隆志は但馬館敷地内の目立たない道を通って、校門まで如月いるかを送った。如月いるかは持っていた紙袋を平賀隆志に押しつけるように渡した。
「とりあえず必要そうなものを買った。いらなかったら捨てて。」
「どうも。なんだか悪いね。」
「あたしだって平賀に押しつけるようなことしちゃったし。」
このとき、「敵情視察〜。」と言いながら但馬館付近を歩いていた山本まのかに目撃されたのであった。

やっとのことで如月いるかを但馬館から追い出した平賀隆志の後ろには藤堂克子がいた。教室の窓から中庭の様子が見えて、下りてきたようだ。
「か、克子、これは……。」
「知ってるわよ。中庭の倉庫でしょ。それより、まずいわよー。」
「まずいって?」
「鹿鳴会のもう1人の会長よ。」
「山本がどうかしたか?」
「如月いるかと秘密で会ってるなんて知られたら、怒って、平賀くんボコボコにされちゃうかも。」
「まさか。ボコボコはないだろう、ボコボコは。」
「わからないわよ。ああいう一見冷静そうに見えるタイプが、意外とキレたら怖いんだから。」
平賀隆志はゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「それに、あの倉庫だって、いつまでもあのままって訳にはいかないでしょ。」
「まあね。」

意外とキレたら怖い男、山本春海は、意外な組み合わせ如月いるかと平賀隆志の真相が気になって、その夜はあまり眠れなかった。

お題8「犬」に続く。

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