本気

ぼくは平賀隆志。但馬館の生徒会長だ。
あの忌々しい山本春海、太宰進、一色一馬、長門兵衛が修学院に入学し鹿鳴会になってから、馬鹿戦はことごとく但馬館が劣勢になってしまった。
しかし、女子部は有馬や藤堂らの活躍もあり、但馬館の優勢だった。特に修学院の女子ソフトボール部はその学院内でもバカにされるほど弱く、但馬館の相手には全くならなかった。但馬館では「修学院の女子ソフト部なんか目を瞑ってても勝てる。」と豪語できるほどだった。
しかし、中学3年、平賀隆志、藤堂克子にとっての最後の春の馬鹿戦で、我らが但馬館女子ソフトボール部は敗北した。

「ほら、グズグズしてないで、サッサと帰り支度しなさいよ。」
藤堂克子はロッカールームで呆然と立ちつくしている部員たちに声をかけた。
「藤堂キャプテンは?」
「わたしは、最後に点検してから帰るから。みんな気をつけて帰るんだよ。ほら、早く帰った帰った。」
自分だけを残して、部員を全部ロッカールームから追い出した。
追い出してから、藤堂克子も帰り支度を始めた。一つ一つロッカーを開き、忘れ物が無いか確認する。ロッカールームの窓も全て閉まっているか、指さし確認した。スポーツバックを持ってロッカールームを出ようとしたとき、入り口に平賀隆志がいるのに気づいた。

「平賀くん。」
その名を呼んだ途端に、藤堂克子の両目から大粒の涙がボロボロこぼれた。下唇を噛んで、下を向く。
「ごめん、負けた。」
喉から絞り出すような声で、それだけを言った。声をかみ殺して泣いている。平賀隆志はロッカールームに入って藤堂克子に向き合い、両腕を背中に回した。
「修学院の女子ソフト部は弱小だったはずだもんな。少し油断したんだろ?」
藤堂克子は首を激しく左右に振った。
「たしかに、さいしょは、バカにしてた。あんな、チビが、はいったからって、なにもかわらないって」
しゃくり上げながら、一言一言を懸命に言っている。
「でも、とちゅうから、なんかちがうって。本気でやらなきゃまけるっておもった。」
「うん、うん。」平賀隆志は優しく頷いた。
「本気だったのに、本気でたたかったのにーーー!!」
あとはもう、言葉にならずに嗚咽だけがロッカールームに響いた。
平賀隆志は何も言葉をかけずに、ただ、抱きしめていた。

藤堂克子がひとしきり涙を流し、嗚咽がおさまった頃、平賀隆志は静かに言った。
「修学院の女子ソフト部はね、今日負けたら廃部だったらしい。」
藤堂克子は驚いた表情で顔を上げた。
「きっと、彼女たちには本気以上の何かがあったんだよ。」
藤堂克子は平賀隆志の顔を見つめている。
「克子の本気が彼女たちに敵わなかったんじゃない。彼女たちが本気以上の力を出したんだ。」
平賀隆志は藤堂克子の背中に回した手を離し、藤堂克子の頭を撫でた。
「克子は、よく頑張ったよ。三年間ありがとう。」
藤堂克子は、もう涙をこぼさずに、目を閉じて首を振った。

平賀隆志は藤堂克子のスポーツバックを持ち、空いた手で藤堂克子の手を握った。藤堂克子も優しく握り替えした。
そして二人は、静かに球場をあとにした。

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