写真

ぼくは平賀隆志。但馬館の生徒会長だ。
去年までは但馬館中等部の生徒会長で、今年からは但馬館高等部の生徒会長をしている。
中等部の頃は宿敵倉鹿修学院に散々辛酸をなめさせられたが、高等部になってからは大分楽になった。高等部には中等部の鹿鳴会がいないからだ。来年の事を思うと末恐ろしいが。
そんなことはともかく、高等部で余裕のぼくは、来年以降の但馬館VS修学院に備えて、たびたび中等部の試合を観戦している。そこの「暇なんでしょ?」なんて思っている君!それは大間違いなのだ。
話がそれた。平賀隆志十番勝負の第一勝負、「写真」は、残念ながらぼくの写真ではない。ぼくが拾ったある一枚の写真について、これから語ろう。
ぼくが高校一年、鹿鳴会のやつらが中学三年の夏、ぼくは野球大会の後に観客席に出る通路で写真を一枚拾った。

その夜、平賀隆志は自宅で写真を前に困惑していた。
写真はありふれた集合写真で妙な物が写っているわけでもない。問題は、その写真が如月いるかを中心に周囲が切り取られていることであった。
――これは、定期入れか財布かポケットのサイズに切って持ち歩いている、と考えるのが自然だろうな。
平賀隆志は写真を手に取ってシゲシゲと眺めた。
――では誰が?
――如月は自分の写真を持ち歩くほどナルシストではないだろう。そうすると山本か?いや、山本は選手だから、観客席用の通路は通らないはずだ。大体、この写真は山本の顔が半分切れている。少しナルシストが入った山本がこんなことをするとは思えない。
再び写真を眺めた。如月いるかはサッカー部のユニホームを着ていた。サッカーの試合後に撮影したようだ。
――よそう。なにかと詮索するのはぼくの趣味ではない。しかし、この写真は誰に返すべきなのか?持ち主が判らないのではどうしようもない。下手に山本に渡したりしたら一悶着ありそうだ。
「とりあえず預かっておくか。」平賀隆志は机の引き出しを開けて、写真を裏返しにして閉まった。
「隆志ーー!!あんた御飯いらないの!!??」自宅の一階から平賀隆志の一番目の姉の怒声が響いた。「御飯だ」と何度も声をかけていたのに、平賀隆志は気づかなかったようだ。

そして数週間後、夏の馬鹿戦女子ソフトボール大会の朝、平賀隆志は引き出しから問題の写真を取り出し、ポケットに入れて家を出た。球場の前で藤堂克子と待ち合わせをしていた。
待ち合わせ時間よりも10分ほど早く着いた平賀隆志はポケットから写真を出して、眺めていた。なぜか、今日持ってこなければならないような気がしたからだ。
まもなく、藤堂克子も待ち合わせ場所に現れたが、平賀隆志は自分に気づかない。その平賀隆志の背後に藤堂克子が回り込み、平賀隆志が真剣に見ている写真を覗きこんだ。
「なにそれ。」明らかに不機嫌そうな声。
その声に驚いて振り向いたが、とき既に遅し。「あたしは有馬たちと試合見るから、平賀くんは後輩くんたちと一緒にいれば!?」怒って有馬たちのもとに行ってしまった。
「ちくしょう、こんな写真のせいで!!!」と発作的に破り捨てようとしたが、思いとどまった。この写真の持ち主はどんな思いで写真を切り抜き、持ち歩いていたのだろう。それを思うと、むげに捨てることはできなかった。
「如月には山本がいるのにな。」

試合が始まった。但馬館、修学院ともに一点も許さず試合は拮抗しているが、何かがおかしい。現役生には申し訳ないが、克子が抜けたソフト部など、如月いるかのいるソフト部に敵うはずはない。互角に戦えるはずはないのだ。
「おかしい、何をやっているんだ、こんなもんじゃないだろう!如月くん!!」思わず声に出してしまった。
「平賀せんぱい、あなたはどっちの味方なんです?」隣の後輩のツッコミはもっともだ。
そして、いつもより静かな修学院の応援席。如月いるかが修学院に転入してからというもの、山本の試合は如月が、如月の試合には山本が中心になって応援団を組み、やかましくて仕方がなかった。しかし今、観客席を見ると山本の姿がない。鹿鳴会の長門と一色は見えるが、太宰もいない。もしや、これは……。ポケットに手を入れ、写真に触れた。

しばらくして、遠くの観客席からざわめく声が聞こえてきた。
「如月いるかが東京に帰るってーーーーッ!!」

「そうはさせないわっ」
但馬館応援席に響き渡る藤堂克子の声。但馬館OGがスタンドに乱入した。有馬たちと一緒で正解だったな、と平賀隆志は思った。
修学院の生徒も続々と飛び入り参加し、修学院の応援席で大きく旗がはためく音がした。
「みんなひるむなーーーッ」山本春海の声が響いた。観客席には太宰の姿もあった。

但馬館OG、修学院のソフト部、サッカー部、剣道部が入り乱れ、勝手な打順で勝手に試合が進められている。わき上がる歓声、数え切れないほどの紙吹雪。平賀隆志も立ち上がって応援の声をあげた。
「そこだ!いっきにせめこめーっ」腕を上げた拍子にポケットの中身がカサリと鳴った。平賀隆志はポケットから写真を出し細かく千切った。両手を空に挙げて、千切った写真を紙吹雪にのせてバラまいた。
――ぼくは写真など拾わなかった。それでいいのだ。
紙吹雪と一緒に宙に舞った写真は、風に吹かれ、ちりぢりに飛んでいった。

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