僕は中学生

──あなたが部屋の扉を開けたとき、ちょっと気になる子が1人ですやすや眠っていたら、あなたはどうしますか。

鹿鳴会本部の扉を開けた山本春海は机の上に突っ伏して眠る如月いるかを見て唖然とした。
まるで陳腐な心理ゲームの質問みたいだ、と思った。あまりに直球過ぎて心理ゲームにすらなっていない。そもそも「気になる子」という言葉が気に入らない。俺は他人に振り回されるような人間じゃない。自分の頭に浮かんだ質問に自分で毒づいた。

──たたき起こすに決まってるだろ、ここを何処だと思っているんだ。

一歩近づいて、肩を叩いて起こそうと手を振り上げたとき、肩まで届くか届かないかくらいの髪の毛の間から首筋が見え、思わず手を引っ込めて息をのんだ。
──意外と肌が白い。
年中外で暴れ回っているくせに、首は白くて、細かった。山本春海は自分の襟元に手をやった。
そして会議室の時計を見た。集合時間までまだしばらく時間はある。
山本春海は叩き起こすのを止めて、1つ席を空けて座り、通学カバンから読みかけの本を出して、続きを読み始めた。

どきどきどきどき

──うるせーイビキだな。
それはイビキではなく自分の心臓の音なのはわかっていた。
如月いるかの寝息は静かなものだ。しかしその静かな寝息を聞こうと耳を澄ませてしまう。
本を開いていても、眼が滑って文章が頭に入らない。
本を閉じて頬杖をつき、彼女の顔を見ていた。
頭の中はボーッとしているのに、心臓の鼓動はどんどん早くなる。息苦しくなってきた。再び時計を見て、彼女の顔を見た。よだれでも垂らしていればいいものを、普段のガサツさは消えて、わずかに開いた唇は男子中学生の心を乱すのに充分だった。大きな瞳はしっかりと瞼が閉じている。

「くっそー!!こんなところで、のうのうと寝ているからだ」
山本春海は席を立ち、再び如月いるかに近づき、顔を覗きこんだ。手を如月いるかの頭の後ろに回し、顔をこちらに向けようとした瞬間、鹿鳴会本部に近づく足音に気づいた。

ハッと我に返り、扉が開いたとき、如月いるかの肩を思いっきり叩いた。
「おい!こんなところで寝るな!!」
突然肩を叩かれて飛び起きた如月いるかは「な、なに!?」と驚きながら、山本春海の顔をグーで殴っていた。
「てめー!やりやがったな!」
「いきなり、叩くからだろ!おたんこなす!!」
怒鳴り合い取っ組み合いのケンカが始まった。
「昨日剣道部の練習でやり合ったばかりなのに」と、本部に現れた太宰進、一色一馬、長門兵衛は呆れた。

山本春海は惜しいことをしたという悔しさよりも、ホッとした安堵の気持ちが大きかった。
──本人が気づかないうちに、……するなんて俺らしくもない。
──本人はもちろん、誰に見られたって構うもんか。

図らずも、好きという気持ちより先に、手を出してしまいかけた山本春海。
堂々とするのは潔いけれど、堂々としすぎる故に、彼女に殴られて張り飛ばされて蹴飛ばされてしまう羽目になるのは、もう少し先のこと。

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