鹿鳴会本部

鹿鳴会本部の入り口に掲げられた”鹿鳴会本部”の看板は、その老朽化に伴い10年ごとに交換することになっている。10年で1枚、100年で10枚の看板が存在することになる。山本春海たちが倉鹿修学院を卒業する年は、ちょうど10年の区切りの年であった。

卒業式の一週間前、鹿鳴会の4人は鹿鳴会本部で中学校生活の最後の大掃除をしていた。
「今年は去年みたいな横着はさせないからな」(大掃除参照)
山本春海が冗談交じりに一色一馬に言った。
「もう、勘弁してくれよー。言い出しっぺは俺じゃないよ」
一色一馬は苦笑いをしている。
「共犯は共犯」山本春海はすました顔でハタキをかけている。
「去年みたいな書類の山は無いから、あんなことはもうしないだろ」
長門兵衛が棚の上を拭きながら言った。
太宰進が窓枠に腰掛けて窓ガラスを拭いている。
「今年の分の書類の山は、いるかが帰る前に片づけてくれたからね」「おかげで、今年は簡単な掃除程度で済んだわけだ」
そして4人は無言になった。

大掃除が終わり、山本春海は表の鹿鳴会本部の看板を取り外してきた。
「新しい看板は頼んであるから、これは倉庫にしまおう」
「4月の鹿鳴会決定戦までは、ここが使われることもないだろうし」
そして長机の上に乗せた看板を裏返した。
看板の裏には、上から順に9年分の歴代の鹿鳴会の名前が書いてあった。毎年、鹿鳴会の任期が終わる3月末に、その年の鹿鳴会の名前を看板の裏に記すことは、密かな習わしになっていた。
「鹿鳴会の知られざる秘密というか歴史だな」一色一馬が笑った。

1983年度鹿鳴会
会長 山本 春海
役員 太宰 進 
役員 一色 一馬
役員 長門 兵衛

1984年度鹿鳴会
会長 如月いるか
会長 山本 春海
役員 一色 一馬
役員 太宰 進 
役員 長門 兵衛

「これさ、春海といるかで、どっちが上に書くかで揉めたんだよな」
「そうそう。二人とも会長だったからね」
「春海は変なところでガキっぽいから、こういうところは譲らないもんな」
「うるさい」
「結局、五十音順で決着がついたんだっけ」
「そう、だから俺まで一馬の下になっちゃった」
「おいおい、それは実力だろう?」

ひとしきり笑い終えて、山本春海が一呼吸をおいて言った。
「今年度に、いるかの名前も載せて良いかな」
鹿鳴会の3人は顔を見合わせた。
「改まって何言ってんだよ?当たり前じゃないか」
「そうか、よかった」
長門兵衛が片づけたばかりの棚から硯と筆を出してきた。
「名前の順序はどうする?今年は春海の好きにできるぜ」太宰進が言った。
「それはもう、考えてあるんだ」山本春海が筆をとった。

山本春海が、自分の名前と如月いるかの名前を書いた看板を見て、ヒューッと太宰進が口笛を吹いた。「俺たちも書こう」
太宰進、一色一馬、長門兵衛、それぞれが筆を取り、自分の名前を書いた。
墨が乾くまでしばらく待ち、看板を倉庫に収めた。裏返しに収められた看板を見て呟いた。
「来年は、どんな鹿鳴会になるのかな」
「さあな」
「三年間、楽しかったな」
「ああ」
「一緒に卒業したかったな」
「……うん」

鹿鳴会本部の看板の裏には、鹿鳴会だけが知っている鹿鳴会の歴史が刻まれている。
何十枚目かの看板の最後に書かれた名前、それは

1985年度鹿鳴会
会長 如月いるか 山本春海
役員 太宰 進
役員 一色一馬
役員 長門兵衛

自分たちが確かに鹿鳴会であった証を残し、彼らは一週間後に倉鹿修学院を卒業する。

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