再会

山本春海を始めとする倉鹿修学院の面々とようやく再会できた日の翌朝、如月宅に電話があった。
”もしもし、いるか親分?”サリーからだった。
”今日の約束なんだけど、あたし、昨日の走りで体中が痛くて動けないよ。”
”えー!?みんなで買いに行こうって言ったじゃん。”
”そうしたいのは山々なんだけど、体が動かないんだよー。”
”しっかりしなよ。あたしは全然平気だよ?”
”いるか親分と一緒にしないでよ。いるか親分とかもめ親分が化け物なんだから。”
”なんだとぉ!?”
”とにかく……もう無理。受話器持つのもしんどい。動けたら、そのお店に行くから。親分たち先に行ってて。”
そのお店とは昨日買いに行くつもりだった家具店のことだ。表参道に店を構え直輸入の外国製家具を取り扱っている。昨日はお金を取り返した時点で7時を回っており、いでたちも酷い有様だったので、店に行くのは諦めるしかなかった。

結局、家具店の前に集合したのは如月いるか、芹沢かもめ、土方琢磨の3人のみ。
「サリーもミッキーも情けないんだから」芹沢かもめが、ため息をついた。
「タクマは大丈夫なの?」如月いるかがきいた。
「僕は運動神経は鈍いけど、体力が無いわけじゃないよ。かもめやいるかちゃんと付き合い長いからね」筋肉痛の様子もなく、腕をぶんぶんと振り回した。「来られないものは仕方ないよ。3人で行こう」
家具店に入り、如月いるかがジャケットのポケットからメモ帳を出した。近藤先生から聞いた家具の品番が希望順通りに何個か書いてある。
「え〜〜っと。あれ?」如月いるかがメモ帳から顔を上げると、芹沢かもめと土方琢磨が見あたらない。
「かもめー、タクマー」キョロキョロ見渡しながら歩くと、二人はキッチンコーナーにいた。
「この白いテーブル、可愛いね、タクマ」
「このキッチンも使いやすそうだよ、かもめ」
芹沢かもめと土方琢磨が楽しそうに品定めをしていた。
「ちょっとー、あんたらの新婚家具を選んでいるんじゃないんだから」
「いるか、あたしが結婚するときには、このテーブルをちょうだいね」
「かもめ、気が早すぎるよ」
あーもう、やってらんないわ。この二人、四月にあった時と随分雰囲気が違うんじゃないの?
それに比べて、あたしときたら……、ゴミまみれの再会だもんな。
春海、今頃どうしているかな。

その頃、山本春海を筆頭に太宰進、一色一馬、長門兵衛、出雲谷銀子、伊勢杏子、大川博美、日向湊は帰りの新幹線の中で反省文を書かされていた。当然理由は昨日の門限破り&行方不明である。
山本春海と太宰進が並んで座り、向かいに座席を対面にひっくり返した一色一馬と長門兵衛が座っている。通路を挟んだ隣の座席には大川博美と日向湊、向かいに出雲谷銀子と伊勢杏子が座っている。
カリカリカリカリ。鉛筆を動かす音が車内に響く。
「みんなの反省文、俺が書こうか」山本春海が俯いて反省文を書きながら、珍しく遠慮がちな口調で言う。
「何でよ?」向かいの一色一馬が手を動かしたまま聞く。
「前日に俺がちゃんと電話でいるかと連絡取っていればこんな事には……」
「あの様子じゃ電話したとか、しなかったとかいう問題じゃないだろ」出雲谷銀子。隣で伊勢杏子が頷く。
「そうよ。それに、いるかちゃんに会いたかったのは山本君だけだと思っているわけじゃないでしょうね?」大川博美と日向湊が口を揃えて言った。
カリカリカリカリ。みんな顔を上げずにひたすら鉛筆を動かしながら会話している。
「何があってもいるかは来るってみんな信じていたからな」書き終わるまで黙っていた長門兵衛が鉛筆を置いた。
「武士道水練大会の時のような思いは、もうたくさんだよ」太宰進が反省文を書き上げて鉛筆を置いた。
「……そうだな」山本春海はみんなが次々に反省文を書き終える様子を見て、頬杖をついて窓の外を見た。

近藤先生の第一希望のスペイン製のタンスを購入した如月いるか、芹沢かもめ、土方琢磨の三人は、家具店の近くの喫茶店に入った。
「昨日は山本君たちを6時間も待たせちゃったんだよね。学校とか大丈夫だったかな」土方琢磨が今更ではあるが心配した。
「あんたの彼氏の春海くんはともかく、みんな揃って待ってくれてたね。四月には見かけなかった人もいたけど、みんな友だちなのね」
「うん……」如月いるかは申し訳なさそうに俯いた。芹沢かもめとケンカした時のことを思い出したのだ。
――すぐ東京に帰るって言ったクセに、あっちでたくさん友達なんか作っちゃってさ
「ちょっと、何で下向いているのよ。理由も知らずに何時間も待ってくれる友だちなんて、なかなかいないよ。素敵な友だちねって言いたかっただけよ」
「え……、だって……」
「あたしとタクマが東京で寂しい思いをしている間に、いるかには友だちがたくさんできて良いな〜って、ここに来る途中も言ってたんだから」
如月いるかは安心して嬉しそうに笑った。その後すぐに悪戯っ子ぽい目をして言った。
「でも、あたしがいない間にタクマとかもめが寂しかったって事はないと思うけど?今日もあたしはおじゃま虫みたいだし?」
如月いるかは目の前で真っ赤な顔をして俯く二人を見て、頬杖をついて窓の外を見た。

いるかちゃん、元気してたー?
絶対にくるって信じてたんだから!

会えてよかったね。
うん。

やっとのことで交わせた言葉を山本春海と如月いるかは思い出していた。

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