卒業式のあと

3年歓送会の数日後、倉鹿修学院昭和59年度卒業式は滞りなく無事終了した。
生徒会役員として行事を取り仕切る鹿鳴会役員もホッと一息である。
「何かやる度に事件が起きていたら、身がもたないよ」とは太宰進の弁。
あらかたの片づけを終え、残りは翌日に持ち越し、鹿鳴会役員は早々に修学院を出発した。目指すは同日に卒業式を迎える但馬館である。

卒業式を終えた但馬館の校内は騒然としていた。
「校門で修学院の鹿鳴会役員が待ち伏せしているらしい」との情報が駆け回っていたからだ。
「ひ…平賀会長、どうしましょう?」気弱そうな新会長は完全に怖じ気づいている。「この前の件の逆恨みですよ!」
「それは逆恨みとは言わないだろう?うちの不良どもが仕掛けたことなのだから。それにもう、俺は会長じゃない」
「平賀会長〜〜〜〜」新会長は半泣きだ。
「そう言っても、このままでは、うちの生徒が一歩も外に出られないな。仕方ない、俺が話をつけてこよう。会長としての最後の仕事だ」
「何あんた1人で格好つけてんのよ」
平賀隆志が振り返ると、藤堂克子をはじめとした、かつて如月いるかとやりあった面々が勢揃いしていた。みんな手には卒業証書を持っている。
「お礼参りなんて、返り討ちにしてやれば良いのよ」

不安げに見守る全校生徒を背に、平賀隆志、藤堂克子たちは堂々と校門に向かって突き進んだ。
校門の柱の影から中の様子を伺っていた一色一馬が焦った。「ひい、ふう、みい……。おい、まずいぞ。人数が多すぎる」
「やだ、何であんなにいるの?」如月いるかがその場でピョンピョン跳ねて、一色一馬の頭越しに但馬館内を見る。
「だから、多めに用意しろと言ったんだ」山本春海が呟く。
「年度末で予算が無いと言ったのは春海だぜ」太宰進が抗議する。
「先頭を歩いている、平賀と藤堂が無難じゃないか?代表ってことで」長門兵衛が妥協案を出した。
「誰が行く?」
「やっぱり会長二人だろう?」
山本春海と如月いるかはお互いを見て頷いた。

先手必勝とばかりに身構えた平賀隆志と藤堂克子が校門に着いたのを見計らって、山本春海が平賀隆志の前、如月いるかが藤堂克子の前に飛び出した。

「ご卒業、おめでとうございます!」

とびっきりの笑顔の如月いるかとすました笑顔の山本春海が、それぞれの目の前の卒業生に花束を差し出した。目の前の敵に一発くれてやろうと拳を握った手のひらは、相手の予想外の行動に行き場を無くし、力なく開いた
「ど…どうもありがとう」呆然としながら藤堂克子が花束を受け取った。平賀隆志はたった今起きた出来事を理解できずに、あっけにとられている。
「おい」山本春海が花束を突き出し、平賀隆志はようやく受け取った。
「お前ら、何しにきたんだ?」花束を抱えて平賀隆志がきいた。
「花束を貰っておいて「何しにきた?」はないだろう?」
「あ、ああ。素直に考えると、卒業祝いに来たように見えるが」
「それ以外に何があるんだよ?」如月いるかが口をとがらせた。
平賀隆志たちと鹿鳴会役員のやり取りをハラハラと見守っていた全校生徒の間から、安堵のため息が漏れた。

「あのときのお礼参りではないのか?」
「あのときって、このあいだのケンカの事か?あれだけ叩きのめしておいて、日を改めてお礼も無いだろ」
「それに、あれは平賀会長のお取り計らいで「剣道部の出稽古」になったし」
「おかげで、俺たちは停学処分のところをお咎め無しだったもんな」
「そういう意味ではお礼と言えばお礼かも?」
鹿鳴会役員5人はゲラゲラ笑った。
こいつら、最後の最後まで俺をコケにしやがって。
心の中で悪態をつきながらも、平賀隆志の口元は少しほころんだ。

こいつらが修学院にいる限り、来年度の但馬館は受難の年だな、と平賀隆志は予感していた。

すきま物語小説目次  web拍手ボタン