女ともだち

「いるかのおばさんて美人だねー」「しぶいねー」
冬休み雪山ツアー参加をかけて、如月いるかが大量の宿題と格闘している。その陣中見舞いの帰り道。今にも雪が降りそうな中を、日向湊、大川博美、出雲谷銀子、伊勢杏子が揃って歩いている。
「あの様子だと徹夜しないと絶対無理だよね」大川博美は本当に心配そうだ。
「徹夜したって終わるか判らんぞ」出雲谷銀子。
「まともにやったら、終わらないだろうなあ」伊勢杏子。
「でも、いるかちゃんだから、きっと何とかしそうな気がしない?」日向湊。
4人で頷いた。

雪が降り始めた。
「いるかちゃん、雪山ツアーに来られるよね」日向湊が言った。
「来ないと困るよ。あいつがいないと、面白くないじゃないか」
「それに、あのハマチまのかが山本君にベ〜〜タベタしているのを一日中見ることになるぜ」
「ウゲ〜〜」4人揃って言った。
「あたしは山本君の事を何とも思ってないのに、まのかちゃんがベタベタしているのを見ると無性に腹が立つのは何でだろう?」
「博美がそれだけいるかに肩入れしてるからだろ?」「それに、春海とまのかの組み合わせって完璧すぎて鼻につくよ」
それは言えるな〜、と4人で頷いた。
「山本君はいるかちゃんのこと、どう思っているのかな」
出雲谷銀子と伊勢杏子は顔を見合わせてニヤニヤした。「ヤボなこと聞くなよ」
「だったら、山本君ももっと毅然とした態度を取れば良いのに」
「何か弱みでも握られているのかなあ」伊勢杏子が呟いた。

雪の降りが少し強くなってきた。
「こんなこと言って、気を悪くしないで欲しいのだけど」と大川博美は前置きした。「もしも、いるかちゃんがいなかったら、銀子さんやお杏さんとこんな風に喋ることもなかったと思う」
「そうだね、私はずいぶん荒れてたし」出雲谷銀子が気を悪くした様子は無かった。「何しろ鹿鳴会除名だからなー」
「私の方が酷かったよ。転入早々に乱闘事件起こしたんだから」
「今思えば不思議だよね。お杏さんって怒りっぽい人じゃないのに」
「それだけ、余裕がなかったってことだろ」
「自分で言うのもなんだけど、人間不信だったしね」
「鹿鳴会も雰囲気が変わったよね。湊は剣道部だからあれだけど、私なんか『生き恥クラブ』と言われたソフト部でしょ?肩身狭かったし、まともに口をきいたこともなかった」
日向湊も頷いた「みんなの憧れだけど近寄りがたかったね」
如月いるかは、人と人との間のあらゆる見えない壁をあっという間にあっけなく壊した。
スケ番と恐れられた出雲谷銀子は気っぷの良い姉御になった。
世の中全部にすねていた伊勢杏子は周囲の状況を冷静に俯瞰する司令塔になった。
如月いるかは、素直に自分の思うままに振る舞い、人を巻き込み、人を変えてゆく。そんな女の子だった。

「あれ見て!」大川博美が指を指す方向に山本春海と山本まのかが歩いていた。
「ギャー、信じらんない!!!いるかちゃんが苦しんでいるというのに!!薄情者!」日向湊があきれかえった。
「なにやってんだあいつ。一度シメてやろうか」出雲谷銀子がギリギリと歯ぎしりする。
伊勢杏子は少し笑った。
「なんで笑ってるの?」大川博美が不思議そうに聞いた。
「いや、山本君がこんなに非難ごうごうを浴びるなんて、たぶん初めてなんじゃないかなーと思ってね」
もしも明日、如月いるかが雪山ツアーを欠席し、山本春海と山本まのかがベ〜タベタしていたら、山本春海を呼び出して締め上げようと、4人で決めた。
翌日、如月いるかは大量の宿題をやっつけ、雪山ツアーに間に合った。バスに乗り込んだ瞬間ぶっ倒れた如月いるかを介抱する山本春海を見て、4人は山本春海締め上げ計画を中止した。
如月いるかのおかげで山本春海はからくも命拾いしたのである。

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