忠告

「こんなことまで頼んじゃって、申し訳なかったね」
職員室で2年雪組の松平先生が山本春海に礼を言った。学年末テストも終わり、職員室の各職員の机上にはテストの答案用紙が散乱している。
「いいえ」
「生徒に整理整頓と指導しておきながら、我々がこの有様だからね。一般生徒は職員室には入れられないんだが」
試験の前後1週間は職員室の扉に「出入り禁止」の張り紙が貼られ、生徒は立ち入りを禁止されている。この惨状では無理もないと、山本春海は思った。
「山本君のおかげで助かった。本当に礼を言うよ。お茶でも入れるから、そこに掛けるといい」
山本春海は軽くお辞儀をして松平先生の机の隣のイスに座った。

数分後にお盆に煎茶とお煎餅をのせて、松平先生が戻った。机にお盆を載せ、お茶を勧める。
「この度は、お騒がせしてしまい、ご迷惑をおかけしました」山本春海は改めて転校騒動の事を詫びた。おそらく担任の松平先生にも何かしらの手間や心配をかけてしまっただろう。
「いやいや、君の選んだ道だ。頭を下げることはない」
そう言われても山本春海はまだ恐縮していた。松平先生は再度お茶を勧めた。
「それより……」
山本春海はようやく湯飲みをもち、口を付けた。
「あの劇は凄かったね」
ぶーーーーーーーーーーっ
お茶を吹いた。「す、すみません」ポケットからハンカチを取り出して松平先生の顔を拭いた。

松平先生は眼鏡を拭きつつ更に言う。「あれは、なかなかしんにせまった演出だった」
「ええ、まあ」言葉を濁す。職員室で何という話をしているんだ。
「というのは嘘だろう。演出係に聞いたよ」
「こ、このお煎餅頂きますね!」ばりぼりばりぼり。
「山本君は年の割には考え方も素行もしっかりしているから、変な心配はしてないのだが」
松平先生は周囲を見渡して、小声で言った。
「如月君の性格も考えたまえ。状況を見て行動しないと、君は生傷が絶えないことになるぞ」
「と、言うのはまあ、人生の先輩としての忠告だ。教師としては公衆の前でのハレンチ行為は慎むように、と言っておこう」
「は、はい」
もしかしたら職員の間で問題になったのかもしれない。ただでさえ目立つ2人だから、他生徒に与える影響も少なくはない。

「それでは、失礼します」山本春海は赤面しながら立ち上がって職員室を出た。
「はい、ご苦労さん」松平先生は後ろを振り返って窓を見た。校門までの道が見える。
テストの居残りだったのだろうか、如月いるかが1人で校門に向かって歩いている。その後ろを山本春海が追いかけるのを慈しむように眺めていた。

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