大掃除

毎年年度末に生徒総出で大掃除をするのが倉鹿修学院の慣わしである。鹿鳴会連中はクラスの教室の片付けを終えた後、鹿鳴会本部に集合する約束だった。しかし鹿鳴会本部に集まったのは、山本春海、如月いるか、一色一馬の3人だけ。

「進と兵衛はどうした?」
「知らないよー」
「進は先生に呼ばれて職員室の片付けをさせられてる。兵衛は体育館倉庫の大掃除に駆り出されたみたいだよ」
「仕方ないなあ、先に3人で進めておくか。俺は今年度の決算資料をまとめて如月院長の承認を貰ってくるから、お前らはこの山を何とかしてくれ」
山本春海が指さす方向には不要になった書類の山があった。軽く見ても段ボール10箱分以上はある。
「外の焼却炉に持って行って、全部燃やすこと」
「これ全部運ぶのぉ?春海は資料まとめなのに?不公平だぁ」
「交代してやってもいいぜ。お前に頭脳労働が出来ればね」
「イヤミなやつ」如月いるかが頬をふくらませた。
「そうむくれずに、片付けちまおうぜ」一色一馬が書類を入れて運ぶ為に段ボール箱を持ってきた。

「うげぇ。こんなにたくさんある。一年でこんなに増えちゃうものなの?」
「去年、整理しきれなかった分が結構残っているからな」
「ふうん。去年片付ける分を今年に持ち越すなんて、春海らしくないね」
「そうだな、あいつが片付けないで済ませるわけないけどな。どうしてだっけな」
「とりあえず段ボールに詰めるだけ詰めちゃおうか」ガシガシ書類をつかんで段ボール箱に放り込んだ。
「あんまりギュウギュウに詰めるなよ。紙は案外重いからな」
各自一箱詰め終わり、段ボール箱を抱えて階段を下りた。鹿鳴会本部は校舎の4階にあり、校舎の外の焼却炉に行くには重い段ボール箱を持って1階まで降りなければならない。2〜3往復ほどして、如月いるかはウンザリした。
「この作業、何回繰り返せば終わるんだろう……」膨大な書類を前にして呆然としている。
「2人でやるには、ちょっとキツイな」ハハハ……と力なく笑う。
如月いるかは目の前の窓を見つめた。そして何かに気がついた。
「ねえ!この真下が焼却炉だよね」窓に張り付いて下を見ると焼却炉が見えた。焼却炉に一番近い校舎の1階は院長室、2、3階は教室で、4階に鹿鳴会本部がある。
「そうだけど」
「あたし、良い方法思いついちゃったー」

「本当に良いのかな、こんなことして」一色一馬が口の端を引きつらせながら青ざめた顔をしている。
「たった2人で運べっつーのがムリなんだよ」さっきよりも凄い勢いで書類を段ボール箱に詰めている。限界まで詰め込んで、蓋を閉じてガムテープを貼った。
そして窓に駆け寄り、勢いよく開けた。段ボール箱を両手で抱え、窓から下に落とした。

その時、山本春海は院長室にいた。院長室は窓を背に院長席が置かれている。イスに座った如月院長に背後の窓は見えない。
如月院長は机の引き出しから学校印を出して、山本春海が提出した書類に承認印を押すところだった。所在なげに如月院長の背後の窓を見つめる山本春海、上から段ボール箱が降ってくるのを見た。
「あ……あいつら……!!」こめかみの辺りに青筋が立った。握った拳がプルプル震えている。
如月院長がやっと全ての書類に承認印を押し終えて顔を上げると、そこにはもう山本春海の姿はなかった。「お〜い、書類は要らんのか……?」
山本春海が3段とばしで階段を駆け上り、「おまえら何やってんだ!!!!」と乱暴に鹿鳴会本部の扉を開けた時、如月いるかは最後の段ボールを窓から落とすところだった。

「4階から荷物を落とすなんて、一体何を考えているんだ!!??」
「下を人が通ったり、窓から顔を出したら大ケガするのが判らないのか!!??」
「一馬まで一緒になってなにやっているんだ!!いるかの単細胞がうつったか!!」久々の大カミナリだった。

「悪い、悪い、遅くなった」
太宰進と長門兵衛が揃って鹿鳴会本部に現れた時には、ガックリ肩を落として魂が抜けたような一色一馬と、そっぽを向いて膨れた如月いるかと、腕組みをしたまま怒りで目をつむった山本春海が、バラバラの方向を向いて座っていた。
「あれ……大掃除は……?」
「不要な書類は全部処分したよ」如月いるかが言った。
「ああ、そうか。結構たくさんあったから大変だっただろう」長門兵衛が地雷を踏む。
「そうでもなかったんだよな、一馬、いるか」
「ふん!!!」
「よく判らないけど、終わったなら、帰ろうぜ。お詫びにおごるからさ。先生に駄菓子屋のサービス券をもらったんだ」太宰進が不穏な空気を察知して愛想笑いした。いつもは春海をなだめるのは一色一馬の役回りだったが、この有様では無理そうだ。

駄菓子屋でジュースとパンやスナックを買った。如月いるかはアンパンをくわえている。
「来年の大掃除は、こんな横着させないからな」
「はいはい、判りましたよ。しつこいんだから、春海は」
来年もみんな一緒にいることを信じて疑わなかった中学2年の春だった。

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