意地悪

土曜日の午後、山本宅にて。山本春海と太宰進が向かい合わせで座っている。お膳の上には麦茶と最中。
「試験勉強は捗っているか?」
「ぼちぼちってところだね。エスカレーターみたいなもんだから、そんなに切羽詰まってはいないよ。そっちこそどうなんだ?ちゃんと受験情報とかリサーチしてるか?」
「俺は大丈夫だよ。模試の成績も悪くなかったし」
「そうだな、お前は心配無用だよな。受かるかどうかじゃなくて、試験成績がトップかどうかだもんな。問題は、いるかだよなあ。お前と同じ高校に行くなんて、普通に考えれば無謀だもんなあ」
「まあね。……って俺、いるかも里見志望だと言ったっけ?」
「いや、聞いてないよ」
「何で知ってるんだよ?」
「聞いたから」
「誰に?」
「本人」
「は?いつ?いつ聞いたんだよ?」
「先週の土曜日」
「聞いたって電話したのかよ?」
「いや、かかってきた」
「お前の家に?」
「いや、お前の家」
「俺の家?いつ!?」
「だから、先週の土曜日だって」
「何でお前が俺の家の電話に出るんだよ」
「お前が便所に行ってたからだ」
「いるかは何て言ってたんだ?」
「徹君元気か?って聞かれたから、徹君を電話に出した」
「それでいるかの用事は済んだと思ったのか」
「思ってない。たぶん、お前の声が聞きたかったんだと思う」
「だったら、なんで俺が戻るまで待たずに電話を切るんだ」
「面白れえからだ」

5分ほど無言の時間が経過。
「こんなこと聞きたくないけど、お前、いるかのこと諦めたんだよな?」
「ああ、ただの友達だよ」
「だったら何でそんな嫌がらせをするんだ?」
「お前が妬くのを見るのが面白れえからだ」
「それだけか?」
「それだけだ。沈着冷静な山本春海が狼狽えるのを見るのが面白いだけだ」
「お前、そんなに性格歪んでいたっけ」
「これが俺の本性だ。今まではいるかに気遣っていたが、その必要も無くなったし」
「そうか」
「そうだ」

更に3分ほど無言の時間が経過。
「じゃ、俺はこれで帰るから。山本君、がんばりたまえよ」
「うるせえ」
「これは俺からのお詫びというかプレゼント」カバンから小さなカセットテープを取り出して山本春海に渡す。
「何だよこれ?留守電テープじゃないか」
「まあ、後で聞いてみてくれよ」

太宰進が帰ってからすぐに電話機にテープを入れて再生ボタンを押した。
”進かあ、ビックリしたよ。藍おばさんでも徹君の声でもないんだもの。”
電話の相手がいるかと判って、すぐに録音開始したようだ。
”春海ちょっと席外してるんだ。すぐ戻るから、ちょっと待ってな。”
”うん。”
ビーッ!!
”なんだ今の音?もしかして公衆電話か?”早口になった。
”げーー!!小銭もう無いよー。やっぱり倉鹿は遠いなあ。”
”何で家の電話から掛けないだよ?”
”だってなんか恥ずかしくてさー。里見に行くって言った時もしつこく理由聞かれてさー。”
”やっぱり里見に行くんだ?”
”うん。”
”言えば良いじゃん。「山本春海君と同じ高校に行きたいからです(はあと)」って。理由はそれなんだろ?”
”だから照れくさくて言えないんじゃん。ねえ春海まだー?”
”何やってんだあいつ、早く戻ってこいよー。なんか伝えておくことあるか?”
”ええと、ええと……”
”春海戻ってきたぞ、そろそろ時間ヤバイだろう?一言だけ言え!”
ガツンと音が鳴った。恐らく太宰進が受話器を受け渡しするフリをしたのだろう。
”春海、私頑張ってるから、絶対一緒に行くから。す…”
ツーツーツー
そこで電話がきれた。

週が明けて月曜日。鹿鳴会本部にて。
「進、お前は本当に良い性格しているな」
「今頃気づいたか」

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